あやしい動きをするもの
UFOは空を飛ぶわけの分からないものを指しますが、昔は「空飛ぶ円盤」とも呼ばれていました。でも、円盤状だけでなくいろいろな形状のものがあったみたいで――葉巻型なんてあった気もします――いまではUFO(未確認飛行物体)という言い方が定着しているようです。
みなさんは、どんな形の物が空を飛んでいれば不気味に感じますか? いかにも定番っぽい円盤状、火の玉みたいな球状、あるいは葉巻とかウィンナーみたいな形、立方体、直方体、昇り龍や蛸やネズミみたいに生き物っぽい形――いろいろ考えられますね。
私は丸かったり球状のものには洗練を感じます。形として見事で美しいのです。あと、丸いものは広がるというか拡散する気がしてなりません。無限に大きくなっていくのではないかという怖さも感じます。固体や液体よりも気体をイメージしているのかもしれません。
輪っかとか丸いイメージは人を安心させます。ぐるぐるまわる――アナログの時計の針が円をえんえんとなぞりつづけているさまが好きです。ぴょっこり、あらまた、ぴょっこり――デジタルの時計の数字がなんどもなんども反復してあらわれるのもいいですね。時計は絶え間ない既視感の製造装置。えんえんとつづく既視感をともなう記憶。循環する日、週、月、年。
(私は時計やカレンダーは循環する思い出の製造装置ではないかと思っています。時計を生き物にたとえるなら、人は地球上の無数の時計と共生していているかのようです。でも、もし人が時計に依存する度合いが高いのであれば、ひょっとすると人は時計に寄生しているのかもしれませんね。これはすべての器械や機械や器具に言える気がします。)
いずれにせよ、時間と空間を直線ではなく、めぐりめぐる円環だとイメージすることで、人はずいぶん救われるし励まされもするのではないでしょうか。
一方で、長方形や立方体だと職人的な完成度を感じて、こんなのが空を飛んでいたら手強い気がします。人工的というか作為を感じるのです。長方形や楕円形だと知的な生物がつくって操縦しているのではないかと考えてしまい、やはり恐ろしいです。とはいえ、なにぶんにも、UFOらしきものを見たことがないので、空想はしますが現実味を覚えません。
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個人的には、形よりも動きに注目したいです。動きのほうがリアルに怖さをイメージできそうな気がします。そもそも、動きのない顔よりも動く表情、姿や格好よりも仕草や身振り、形体よりも動作のほうが生々しいし不気味じゃないですか? 動きは予想がつかなくて不安になります。
つまり、固定よりも変化を恐れるのです。なにしろ、変化(へんか)は「へんげ」とも読みます。ゲゲゲの鬼太郎みたいで、「げ」という濁音が不気味ではないですか? 七変化(しちへんげ)の変化ですし、語呂から変幻自在(へんげんじざい)を連想するのかもしれません。こういうことって大切です。
「みなさんは、どんな形の物が空を飛んでいれば不気味に感じますか?」に話をもどします。
直線で落下するように動けば、隕石の可能性があり得体が知れて安心するかもしれません(落ちるのが自分のいるところでなければ、ですけど)。つまり素直なのです。直線で水平に動けば何かが乗っている可能性を感じて恐ろしいです。でも飛行機かもしれないと考えると安心しますね。ミサイルの可能性もありますが、もしミサイルならまわりが大騒ぎしているはずだと考えそうです。
ふわふわ――こんなのが飛んでいれば妖しいです。見たことはありませんが、火の玉を連想します。ただ人魂だと思えば、気心の知れた同士ですから、手を合わせてひたすらお祈りをすることで消えてくれそうな楽観と安心感があります。
いちばん怪しく妖しいのはジグザグです。これは不気味だし、マジで怖いです。知性や人間もどきっぽさや、感情を感じるからだと思います。感情は動きのなかでも、とくに予測がつかなくて不安です。しかも人魂と異なり、話の通じなさそうな生き物とか生命体めいていて怪しくて恐ろしいのです。中に乗っている「物」の姿までが勝手に頭に浮かんできて、鳥肌が立ちそうです。
ZIGZAG、zigzag、ジグザグ、じぐざぐ。字面と語呂があやしいですね。音と形が蛇の形と動きを連想させるのかもしれません。蛇を敵として知覚する生き物は多そうですね。もちろんヒトも。かたちそのものがうごきを思わせます。
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動くというのは、あくまでも人間としての枠内で判断しているものかもしれません。知覚に左右されるという意味です。
植物を考えてみてください。特殊なカメラと特殊な撮影法で――この「特殊な」ってテキトーな言葉で便利ですね、知らない複雑そうなものだったり、得体の知れないものはぜんぶ「特殊な」と形容すればいいのです、ニュースでよく出てきます――、数秒とか数分のあいだに、何か月、あるいは何年にもわたる動きや変化を映す動画があります。
ああいうので見ると、植物ってめちゃくちゃ動いているじゃないですか。ひゅるひゅる、にょきにょき、動きます。場所は移動しなくても、その動きはすごいです。あと、地殻運動を見える化した映像がありますが、あれも感動的です。日本列島やそこにある山脈やまわりのプレートがどのように形成されたかをCGかなにかで見せているわけですが、めちゃくちゃ動いていますね。
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動きって不思議です。というか、人には見えなかったり知覚できない動きがいっぱいあって、私たちはそれに気づいていないだけなのでしょうね。なんだがぞくぞくしてきました。あたりを見まわしています。よく考えると、身のまわりのすべてのものが移動してここにあるわけです。それに、いつまでもここにあるわけではありません。
「ここ」にある「これ」は、以前は「こう」ではなかったし、「どこか」にあったはずです。万物流転。万物動転。気も動転。びっくり仰天。
はあ。ため息が漏れました。すべての物が長い目で見れば動いているのですね。目の前のペンや本やリップクリームが健気で愛おしく感じられます。みんな頑張っているんだね。
あ、自分もそうだと気づき、いまビビっています。というか、この部屋でいちばん動いているのは、この私じゃないですか。千鳥足で右往左往。たぶんジグザグを描いています。